2009.06.01 Mon 17:56

評価:

感慨に浸りながらじっくり読みたい青春グラフィティー
70年終わり~80年代の東京で20代を駆け抜けた一人の青年の物語。
6つの章それぞれが鮮やかに切り抜いた青春の1ページに、
懐かしさ、後悔、寂しさ、感謝、色々な感情が交錯して、
じーんと胸が熱くなる、とても感慨深い作品になっています。
例えば主人公・久雄が高校を卒業して上京するエピソードでは、
自分の当時を思い出し、送り出す家族の気持ちを重ね合わせ、
「あの時なんでもっと感謝しなかったんだろう」と後悔したり、
しかし一人暮らしに胸を躍らせる久雄の気持ちもすごく同感出来たり。
就職し、部下が出来て天狗になった久雄に試練が訪れるシーンでは、
クライアントが「いい気になるな」と彼を諭す言葉のひとつひとつに、
「あぁ、どういう状況でもこういう気持ちで生きていかないとな」
と改めて感じさせられたり。
奥田さんの作品はどれもそうですが、
「これはノートに書き写してとっておきたい」という文章が必ず出てきます。
人の心、本性をとてもうまく言い当てていて、
それでいて嫌味や説教くささが全くないから、本当に感動してしまう。
そんな、人生の勉強になる小説ばかりです。
この作品の久雄は、おそらく半分は奥田さんご自身の姿なのでしょう。
途中から「自伝っぽいのかな?」と思って読んでいたのですが、
読み終わって色々なレビューを見せていただいたら、
生まれた年や辿った経歴を見て殆どのファンは確信してました。
(あとがきにもありましたが・・・)
最後の章、ちょうど久雄が30歳を迎える直前で物語は幕を閉じるのですが、
その複雑な心境が今の自分の心にグっときて、感慨も一入です。
それぞれのエピソードの背景に当時の社会的な出来事も描かれていて、
70年~80年代に青春を生きた方なら更に楽しめる作品だと思います。
是非一人の夜にしみじみと、読んでみてください。
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